シンチャオ! サイゴンノオトのぴょんこです。
本当でしたら、今頃、ベトナムの青い空の下を歩いているはずでした。
このところ、日本ではどんよりと雲が重いお天気が続いているので、ベトナムの空が一層恋しく思われます。
家の中で過ごす時間が増え、以前から読みたいと思っていた本を手に取りました。
『草原に黄色い花を見つける』グエン・ニャット・アイン 著/加藤 栄 訳(カナリアコミュニケーションズ 2017年)です。
ヴィクター・ヴー監督が映画化した同名の映画の原作本で、私は飛行機の中でその映画を観てから、この本のことがずっと気になっていたのです。
映画は、ベトナムののどかな農村の美しい風景で始まります。主人公は中学生の男の子。両親と弟と、貧しくも仲睦まじく暮らしています。
同級生の幼なじみの少女への淡い恋心。恋敵の男子との争い。少女と兄弟のように遊ぶ弟への激しい嫉妬、そして暴力。ささいなことから、思いもかけない方向へ物語が進んでいきますが、弟は主人公のひどい行動にも、兄を慕い信じることをやめません。
また、やるせなくなるほどに切迫した、村の人々の暮らし。毎年やってくる台風で村は洪水に見舞われてしまいます。主人公の家族も、全員で2階にあがり、すぐそこまで水につかった机や家具の上に座って、やり過ごします。その時も、両親は子どもたちを不安な気持ちにさせまいと、明るく気丈に振る舞います。
主人公や周囲の子ども、おとなたちの揺れる気持ち、圧倒的な自然の力や美しさ…。
見ていて胸がいっぱいになり、飛行機の中にもかかわらず号泣してしまいました。
実際に、グエン・ニャット・アインの本を読んでみると、ヴィクター・ヴー監督は、原書の魅力をいかに忠実に映像化しているかが分かり、驚きました。
ベトナムの昔話や村に伝わる伝説などを信じ、虚実ないまぜの世界に生きる村の人々。そのウイットに富んだ会話や、持ち前の強さや明るさ。
この本は、主人公が豊かな人間関係の中で少しずつ大人になってゆくという普遍的なテーマを、ベトナム社会の中に浮き彫りにしています。
グエン・ニャット・アインは、ベトナムの大ベストセラー作家で、たくさんの作品を10代の若い人たちや、大人たちに向けて書いています。
私もいつかベトナム語で読んでみたいと『Cho tôi xin một vé đi tuổi thơ(子どもの頃に戻る切符をください/日本では未翻訳)』を購入していましたが、まだ読むに至っていませんでした。こちらは、昔に子どもだった大人たちに向けて書かれた本だそうです。
前述の『草原に黄色い花を見つける』で、その瑞々しい人物描写に魅了されました。グエン・ニャット・アインの本をほかにももっと読んでみたいです。
日本ではほかに、同じく加藤栄氏の訳で『つぶらな瞳』(てらいんく 2004年)が刊行されています。ご興味のある方はぜひ、お読みください。
ベトナムでは、日本の小説も漫画も、そして絵本も、たくさん翻訳され、親しまれています。
日本でも、もっともっとベトナムの本や詩や芸術が紹介されたらいいなあ。そう願っています。