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VOL.207 チャム民族の伝統舞踊 「カヴォム・キム・ナム・クルン」の来日

release : category : ベトナム〜おいしい散歩〜

今年は、日越友好の50周年を迎えました。1,300年ほど前には、奈良東大寺の大仏開眼供養(752年)が執りおこなわれ、導師をつとめたインド僧の菩提僊那(ボーディセーナ)とともに来日をした林邑僧(りんゆうそう)仏哲(ぶってつ)により、雅楽の一つ林邑楽が伝わったとされています。

林邑はチャンパ王国のことで、ベトナム中部にかつてありました。日本の雅楽のなかに陸と海を渡ってきた国際的な交流があり、チャンパとの縁があることを知りました。

チャム族の伝統継承楽団「Kawom khik nam krung(カヴォム・キム・ナム・クルン)」の来日で、お祭りや儀礼でおこなわれる伝統楽器の演奏と舞踊を観ることができました。

・カヴォム・キム・ナム・クルン ハノイ公演のフライヤー(

 

©yukiko aoki

ワールド・コラボ・フェスタ2023()にて。

サラナイ奏者のブーさんです。サラナイ(Saranai)は、雅楽のしちりきやチャルメラのような笛です。
鍛錬された呼吸法で吹いています。

 

©yukiko aoki

サラナイは、3つのパーツに分かれています。息を吹き込む部分・筒状の部分・トランペットのベルのような部分です。ブーさんは息を長く吹き込んでサラナイの音色を響かせています。

カヴォム・キム・ナム・クルン代表のカフューさんの話によると、サラナイの素材は、水牛の角とタマリンドの木または、可能ならば象牙でつくられるのだそうです。

昔、チャンパ王国にはたくさんのゾウがいました。近隣のどの国よりも多く生息していたという話を、在日チャム人の方々からききました。ゾウは自然の豊かさの象徴といえますが、時を経て、希少な動物となっています。

私は、ブーさんのサラナイを聴きながら、以前、ユネスコの世界文化遺産であるミーソン遺跡(ベトナム中部クアンナム省)の舞台で演奏をしていたおじいさんを思い出しました。ブーさんとよく似ていて、質問をしてみたところ、親類のおじさんになるそうです。サラナイのソウルフルな澄んだ音色に深く感動したのを思い出しました。ブーさんのサラナイも一度聴いたら忘れられないくらいに素晴らしかったです。

 

©yukiko aoki

カヴォム・キム・ナム・クルン伝統継承楽団を日本に招いたNPO法人学び舎つばさのブースにて。ブーさんたちがチャンパ伝統の楽器をいくつか演奏してくれました。

これは、亀の甲羅でつくられた二弦琴「Kanyi」です。カフューさんの話によると、チャム族が、Lei kokと呼ぶロープを弦にしていて、弓に馬のしっぽをつけて演奏をしています。ふくよかな温かみのある音がします。弾き方によっては、もの寂しさがあります。ブーさんは演奏の合間に、お客様に手で触れてもらいながら楽器の説明をしていました。

 

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ギヌン太鼓(Gineng)のリズムを刻むカヴォム・キム・ナム・クルン伝統継承楽団の代表者カフューさん(左)とジャナオットさん(右)です。カフューさんとは、5月のベトナム訪問でお会いしました。主に、ギヌン太鼓(Gineng)と、パラヌン太鼓(Paranang)をたたいて、唄を歌います。

カフューさんにたずねたところ、ギヌン太鼓(Gineng)やパラヌン太鼓(Paranang)は、Lim または、Cachitという木材からつくられるそうです。

ギヌン太鼓(Gineng)は、筒状で、筒の真ん中がゆるやかに膨らんでいます。太鼓の皮の部分は大きな面と小さな面の2つあり、大きな面は水牛の皮でつくられ、小さな面はMangというシカの皮でつくられています。大きな面は35cm、小さな面は27cmほどだそうです。また、用途により大きさは変えるそうです。

平たいパラヌン太鼓(Paranang)は、片面だけの太鼓でMangというシカの皮か、山羊の皮でつくられています。シカの仲間で、con Nai、con Hươuという名も教えていただきました。

伝統楽器にはそれぞれに意味や物語りがあると思います。ほんの一部ですが、カヴォム・キム・ナム・クルンの皆さんに教えていただいたことを書き留めておきたいと思います。

 

©yukiko aoki

スカーさんの登場です。チャム民族の女性が身につける衣装は、Aw kamei/Áo kamei アオカメイといいます。アオは衣服のことで、カメイは女性という意味です。白を基調にしているアオカメイです。ワンピースドレスにスカート(腰布)のようなものを下にはいています。

 

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スカーさんは、幼い頃から踊りの才能があり、村のおばあさんたちの踊りをみて育ちました。この踊りは、新嘗祭にあたる舞です。私のチャム人のお母さんの家の庭にも鶏が飼われていて、お米をつついてる風景が目に浮かんでくるようでした。歌や踊りは暮らしの祈りのように私は印象を受けました。

 

©yukiko aoki

これは、錦糸の織物をまといながらの踊りです。日本にはめずらしい踊りなのではと思いました。このドレスのような輝かしい織物は、スカーさんのおばあさまの手織りです。(また後ほどに)

 

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チャム暦の新年を祝うRija Nagar(リジャー・ナガール)の儀礼より、ジャナオットさんのÔng Ka-ing(オン・カイン)の舞です。チャムの聖人(Thánh)たちが降りてきてオン・カインが舞います。オン・カインとは、神聖舞踊を舞う降霊術の憑坐(よりまし)となる男性の宗教職能者のことだそうです。今回の日本公演では、船乗りのPo Tang ahaok(ポー タン アホー)を象徴する舞踊と、才能ある将軍であったPo Haniim per(ポー ハニイン パン)を象徴する火を踏む舞が披露されました。

海の民であるチャム族。広く海を航海していると強風や嵐に見舞われ、敵の軍艦と遭遇することもありました。チャム族は木製の船(帆のある船と帆のない船)だけを持っていたそうです。船が沈没してしまうこともあったと思います。アラブの剣の舞を思わせるステップへと場面はうつり、火を踏みつけ鞭をふりまわす勇敢さは臨場感にあふれるものでした。ギヌン太鼓(Gineng)の旋律と相まって特別な時空間に包まれました。
・今回、会場では火は使いませんでした。

 

©yukiko aoki

スカーさんの扇の舞です。チャム伝統の舞踊には、扇をつかうダンスがあります。その一部は、雅楽にも通じるところがあるようです。

紅色のアオカメイと2つの扇を広げたシルエット、耳飾りのタッセルがゆれて優美さがあり、チャム女性の美しさが際立っています。

すでに、上の写真でドレスのような錦糸の織物をまとうスカーさんをご紹介しましたが、こちらの上の衣につけている2本の帯(ベルト)もおばあさまの手織りなのだそうです。これらは、チャムバニ宗教の成人式「Lễ trưởng thành của thiếu nữ Chăm Bàni」におばあさまからスカーさんに贈られたものでした。

おばあさんがつくってくれた衣装を着るのが、いちばんの幸せです。スカーさんは嬉しそうに教えてくれました。

チャム民族の伝統には、一年を通してたくさんのお祭りや儀礼があるそうです。それぞれに場を整えて、神聖な思いを保ち、伝統の楽器の音色にのせて、先人から受け継がれている宝物を知る機会となりました。

 
 
参考資料:知ろうベトナム:チャム族伝統継承楽団による舞踊公演を通じた日本の雅楽の紹介
チャム語彙集 Cham-Vietnamese-English-Japanese Vocabulary Sakaya. 新江利彦 共著

取材協力:チャム族の伝統継承楽団「Kawom khik nam krung(カヴォム・キム・ナム・クルン)」のカヒューさん、ブーさん、スカーさん、ジャナオットさん。学び舎つばさのグエンさん、タムさん、ヴィーさん、在日チャム民族の皆さん。

 
フォトグラファー 青木由希子