ニントゥアン省にあるヴァン・ラン村で一番古い家をたずねました。
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水色の空と乾いた空気が心地よい昼下がり、
赤レンガを敷き詰めた庭の真ん中で馬が二頭、草を食んでいます。
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村で一番古い家と言っても実際には家の半分が昔のままで、もう半分はコンクリートの家につくりかえているのですが、
案内された家には素敵なおじいさんとおばあさんが住んでいました。
チャム民族の白いターバンをきゅっと巻いて白いシャツのおじいさん。
85歳のおじいさんの瞳は、とても穏やかでやさしくて、それだけでジーンときてしまいます。
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おじいさんの奥さんです。
白いターバンをふんわりと巻いて、ビンロウを楽しんでいます。
笑うと口元が真っ赤で、かわいいです。
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古い家の土壁は、昔、白く塗られていました。海から白い貝殻を集めて粉にしたものを塗っています。
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土壁は、竹や木を格子に組んでから土と藁を混ぜたものを塗り込んでつくります。説明を聞きながら日本の土壁と似ていると思いました。その技法は、昔々、チャム民族から日本に伝えられたものの一つだと日本の建築家から教わりました。東南アジアで最も歴史が長い野焼きのバウチュック陶器村(VOL.96)の独特な技法も日本に伝えられていると陶芸家の友人から聞きました。
この家はすべて土に還るものでつくられました。自然に負担をかけることなく暮らしてきたチャム民族の知恵が、ゆっくりと寄せては返す光の波のようにやさしさにあふれていることに気づきます。
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今は電線が通っていますが、釘一本も使わずに建てられた家です。
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室内の壁には、古いチャム語の看板がリユース(再使用)されていました。
時代とともに文字がかすれて消えかかっていますが、村のある店の看板だったと聞きました。
残念なことにこの家がいつ建てられたのか、この看板がいつの時代のものなのかを知っている村人はいませんでした。
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家の壁には、チャム語のお祓いの札が貼ってありました。家を守り家族の健康を祈るお札だそうです。