Bingun likei/ビグゥン・リケイ (Đực井戸)に、女の子たちが来ていました。洗いものを終えて井戸の仕組みについて観察をしているようでした。近くに住むおじいさんとおばあさんからは、男の人がつかう井戸ときいていたのですが、時の流れはあるのでしょう。少しずつ変化しながら、これからもふたつの古代井戸は、村の暮らしをうるおす源であることに変わりはないと思います。
チャム民族は淡水の水脈をみつけるのが得意で、かつてチャンパ王国があったベトナム中部に広く古代井戸をみつけることができるそうです。今も生活用水や灌漑用水として大切につかわれています。
食文化に生かされている井戸もあります。ホイアンのバーレー井戸はチャンパ時代のもので名物の *カオラウ(汁なし米麺)・ *ホワイトローズ(米粉のワンタン)に欠かせないものです。また、チャム島(ホイアン沖のクーラオチャム)や国際貿易港として栄えたホイアンなどは、世界各地からの船に真水を供給していました。
井戸の近くに住むおじいさんとおばあさんの家を訪ねたときのこと。庭には、身体を癒してれくれる木や草が育てられていました。
これは、Cay Mật Gấu (カイ・マッ・ガゥ)という木で、糖尿病・胆石・皮膚炎・よく眠れないときにお茶にして飲むといいそうです。
チャム民族の友人は、おじいさんからひと束わけてもらっていました。気軽にくださいといって、おじいさんは快く優しい手で枝を選んであげていました。私は、初対面で遠慮がないことにおどろきました。私の故郷を思い出して、日本に暮らして庭の木の実などを分けてもらっていたのは、いつの日のことだったろう…と。思いをめぐらせて、木や果実が人の手から手へ渡り、木の恵みは暮らしの知恵とともに広がり、種はやがて土にもどっていくイメージを抱きました。
これは、Cây Chó Đẻ(カイ・チョー・デー)という薬草です。雑草のように育っていますが藁が敷かれていました。日本では、コミカンソウというそうです。
Cây Chó Đẻは、チャム民族での効能はききそびれてしまったのですが、ベトナムのサイトで調べたところ、肝機能などに良いそうです。世界でも伝統の薬草として知られています。Chó Đẻは、犬の出産という意味があり、お産をした犬が食べる草とのいい伝えがありました。
和名のコミカンソウは、「小蜜柑草」と書きます。小さな葉の下に連なるように、小さなミカンのような赤い実をたくさんつける草です。
庭の一角には、焚き木と三つの石を並べたかまどがありました。乾燥させた草木がつるされていて、お茶にするそうです。
翌年に訪ねると、野菜の種とりや薬草の束がつり下げられていました。
種や草をつるす軒下は、風通しがよく、おじいさんが昼寝をするハンモックと木の枝を束ねたほうきが置かれていました。庭の奥にもさまざまな草が育っています。
井戸の村の田んぼ道を歩いて、涼しい風に吹かれて村を後にするころ。写真の左側上に遠目にみえるのですが、黒毛に白斑のヤギたちがきていました。緑の風にのって、出会った日のように、楽しそうなメロディが聴こえてきそうでした。
チャム民族の井戸の村
Palei Cwah Patih チョーパティ村/ベトナム名: Làng Chăm Thành Tín タンティン村
Làng Chăm Thành Tín, xã Phước Hải, huyện Ninh Phước, tỉnh Ninh Thuận(ニントゥアン省).
*ホイアンのバーレー井戸とカオラウ(汁なし米麺)
*ホイアンのホワイトローズ(米粉のワンタン)
取材協力:BI Travel – Teambuilding/Tour Trải Nghiệm – Khám Phá (WebSite)